※本コラムは2022年12月13日に実施したIRインタビューをもとにしております。
学生起業家として現在の前身となる会社を立ち上げ、以後20年強にわたりIT分野で事業を展開してきたのが、株式会社フレクト代表取締役CEOの黒川幸治氏です。会社の沿革から見える組織の強みや、今後の戦略について伺いました。
株式会社フレクトを一言で言うと
クラウド先端テクノロジーとデザインで企業のDXを支援する、マルチクラウド・インテグレーターです。
創業の経緯
当社の創業は2005年ですが、始まりは学生時代に立ち上げた前身会社に遡ります。渋谷を中心とした日本版シリコンバレー「ビットバレー」へ参加し、IT分野や経営に対し興味をもったことがきっかけです。設立当初のビジネスモデルは、学生であったということもあり大学のサークルや部活動のコミュニティ化を通し、広告費を収益源とするものでしたが、なかなかマネタイズには苦労していました。
そのようななかで、システム開発に企業の課題感やニーズを感じるようになり、途中から事業を転換、これが現在の業務につながっております。その後、取締役の退任などを受け、リスタートの意味で当社を立ち上げておりますので、実はフレクトができる前から、業務としては先にスタートしていたというわけです。
前身の会社では二次ないしは三次請けでの開発がメインでして、本来リスペクトされるべき存在のエンジニアが恵まれない、価値を評価されない、といった業界構造や働き手視点での課題を感じることがありました。また、我々の価値をダイレクトに事業会社に届けることができるような組織にしていくことが重要である、と認識していました。その点、創業後にまずはリクルート様のBtoC向けのweb・モバイルアプリケーションの開発案件を直接受注できたことは、非常に大きなポイントでした。
しかし、リーマンショックの際にはお客様の業績に影響が生じて当社への発注が減少し、当社の業績も同じように悪化してしまいました。この時、当社事業領域のマーケットが巨大であるにも関わらず景況感に左右されてしまったということは、そのような厳しい環境下でも選んでいただけるだけの価値提供ができていないのだ、と気付かされました。技術革新のスピードは非常に速いため、ビジネスを陳腐化させないためにも先端テクノロジーに常にキャッチアップし、そして事業として実装していくことを繰り返してきました。現在の事業のベースにあります、先端テクノロジーに対する取り組みはここが起点となっており、当社の転換点と言えるでしょう。
また、上場へむけ成長戦略へと舵を切ったこともターニングポイントとなっています。それまでは事業規模を拡大していくよりも、目の前にいる一部のお客様に対して質の良いサービスを届けることを愚直に取り組んでいました。ですが、「マルチクラウドとデザインをセットで」という引き合いが徐々に増える一方、我々自身のキャパシティの問題から案件をお断りすることも増えてしまっていました。
当時の経営陣で話し合い、世の中への価値提供を拡大していかなければ企業理念にそぐわないのではないか、という結論に至ったのです。ちょうどそのタイミングでSalesforceのCVCから出資のご提案をいただき、家族経営的であった当社も、成長戦略へ舵を切り、以降、着実に実績を積み上げ、2021年12月に上場を果たすことができました。
事業内容について
お客様の課題・ご要望に対して個社ごとにカスタマイズして解決する基盤事業であるクラウドインテグレーションサービスと、プロダクトベースでソリューションを提供する新規事業であるCariotサービスの二つを展開しております。
クラウドインテグレーションサービスの価値は、先端テクノロジーをベースに新しい顧客体験を形にすることです。「攻めのDX」と表現しておりまして、売上向上やエンドユーザー獲得などを目的に、IoTやモビリティ、AI、企業間EC、顧客とつながるコミユニティサービスなどを開発します。
特徴としては、大手企業様を中心とした顧客基盤、開発の俊敏性、そしてマルチクラウドの高い技術力が挙げられます。
当事業の売上の95%は各業界を牽引する大手企業様が占めています。もちろん創業当初から取引があったわけではなく、一つ一つの仕事において信頼を積み上げていった結果であると思っています。時間はかかりましたが、実績を積むことでSalesforce様やリーディングカンパニーの事業会社様からの引き合いが増加し、現在の顧客基盤へと繋がっています。
開発期間は平均3ヶ月で行っておりますが、ポイントは開発のサイクルを回し続けているという点です。まずはいち早く世の中に出し、フィードバックが来たら改善・発展に繋げるのです。テクノロジーの進化によって、外部環境が急速に変化するようになりましたが、このスピード感に対応出来るか否かは重要であると認識しております。
また、単一サービスだけの提供ではなく、複数のデジタルサービスを開発し、それらを束ねてビジネスモデルの変革を支援します。当社が選ばれ続ける要因として、各種クラウドプラットフォームの長所短所を抑えて、デジタルサービスの特徴や顧客要件に最適なクラウドを適材適所で活用することができるマルチクラウドの高い技術力を持つことが挙げられると考えています。
Cariotサービスは2016年から開始した、商用車の動態管理を行うSaaS事業です。国内商用車の「テレマティクス」と言われるインターネットを通じた車のデータ管理における市場規模は、2035年までには現在の2.7倍に成長すると見込まれております。 特に、2024年の残業適用規制を前に働き方の是正を求められている運送業界において、車と企業を繋ぐことでドライバーを中心に働き方改革の推進を支援していきたいと考えております。具体的には、専用の車載デバイスから取得したデータの管理やそれを使った業務効率化、また納品管理などの業務をDXするプロダクト開発を進めています。
中長期の成長イメージとそのための施策
1点目、マルチクラウドの強化と発展により、大手企業を中心に、契約顧客数の増加とARPA(顧客単価)の増加で、安定かつ継続的な成長を行っていきます。当社のお客様であります大手企業様は、DX投資に積極的、またはある種の危機感を持っていらっしゃいます。我々としては、この需要の高まりに対し、顧客を中心に360°でつながるSalesforceのクラウドサービスを幅広くカバーすることで、先ほどお話ししたIoTやAI、企業間EC、顧客とつながるコミユニティサービスといったマルチな開発でお応えすることで、多様なサービスを提供していく考えです。 また、企業内で分断されているシステムを繋ぐAPI連携基盤のMuleSoftのニーズも高まっています。データの分断=顧客体験の分断ですので、顧客体験価値向上には企業に存在するあまたのデータをシームレスに繋ぐことが非常に重要です。あらゆるシステムのハブになるプロダクトのため、当社ビジネスの観点では、システムを繋ぐ開発が発生するごとにクロスセルが進みやすくなります。戦略的には新規獲得よりも既存のお客様とのお取引拡大に比重を置いていきます。
2点目は、企業の旺盛なDX需要に応えるため、人材投資も引き続き行なっていきます。足元ではエンジニアの中途採用が堅調ですが、これは何か一つの施策ではなく、多様な施策の積み上げによるものだと考えています。入社される方の9割はクラウド未経験で、今後のキャリアのためにクラウドの必要性を感じていらっしゃるケースがほとんどです。その育成とキャリアアップの機会を実現するために、早期にキャッチアップいただくための教育体制拡充への投資にも一層注力していきます。先端テクノロジーを扱う会社ですので、もちろん技術力の高さも当社の価値ですが、このようなエンジニア育成制度を始めとした、学び育みあう会社の文化・風土はかなり長い時間をかけて作り上げられた当社の強みとなっています。ビジネス環境が大きく変化していく中、この点は今後も当社の競争優位性になっていくと考えています。
3点目は、先端テクノロジーのキャッチアップとともに研究開発への投資も継続させていきます。クラウドインテグレーションサービスでお客様と相対することで、当社は各業界の課題にも触れており、つまりは常に新しいニーズ=新規事業へのアンテナを張っているのです。Cariotサービスはまさにこの循環の中で生まれたものです。現時点で具体化はしていませんが、Cariotに次ぐ新規サービスのタネも存在しています。
4点目は、CariotサービスへのSaaSビジネスへの投資で、クラウドインテグレーションサービスと連携することで、シナジー効果を創出していきます。
投資家の皆様へメッセージ
当社は持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を掲げている会社です。そのため、毎年の事業計画を達成すること、そしてその積み上げにより信頼の獲得に努めております。
併せて、日本のデジタル化の遅れは非常に顕著であり、特に企業においてはDXを進めていかなければ会社の存続に関わるという危機感も出始めております。
当社が少しでも事業規模を拡大し、企業価値を高めることで、このような日本の企業やその先の社会が明るく、豊かになっていくことに貢献していきます。また、これを通じ株主の皆様の期待にも応えていきたいと考えております。
本社所在地:東京都港区芝浦1丁目1番1号 浜松町ビルディング11F
設立:2005年8月
資本金:686百万円(2022年12月アクセス時)
上場市場:東証グロース(2021年12月10日上場)
証券コード:4414