※本コラムは2023年2月10日に実施したIRインタビューをもとにしております。
総合情報サイト「All About」をはじめとするデジタルメディアを祖業に、マーケティングとコンシューマーサービス領域で事業を展開する株式会社オールアバウト。
今回は代表取締役社長兼グループCEOの江幡哲也氏にメディアビジネス確立の背景や今後成長が期待される新規事業の拡大戦略を伺いました。
株式会社オールアバウトを一言で言うと
テクノロジーと人の力で 「不安なく、賢く、自分らしく」を支えるプラットフォームになることを目指す会社です。
創業の経緯
前職はリクルートにおりました。入社年がちょうど通信自由化のタイミングでして、エンジニアとして通信事業の立ち上げに携わりました。その後、もともと興味を持っていたこともあり、IT領域でいくつかの事業開発も担当いたしました。
社内起業として1996年に立ち上げたBtoBのITマッチングサイトを日本で初めてスタートさせるなど、インターネット系事業を世の中に先駆けて展開していました。また、最後は経営企画のリーダーとして中期戦略の策定やベンチャー企業投資の業務を務めました。
一通りリクルートにおいてはやりたい仕事はやり遂げたと感じたところで、2000年に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現当社)を設立いたしました。独立に際してリクルートから出資を受けたこと、および当時アメリカのインターネットビジネス領域で注目度の高かったアバウトドットコム社が日本に進出するという話があり、手を組もうとなったために、2社の名前が入っているというわけです。
事業領域選択の背景には、「個人を豊かに、社会を元気に。」という我々のミッションが関わっています。人口動態の変化などからいずれ日本の国力が低下するということは当時から意識しておりました。そしてこれを打破するには、国や企業中心の社会から、個人がもっと台頭し社会と共創していくことが重要であると考え、これを実現する事業をやりたいと考えていたのです。そこにまさにインターネットブームが来まして、これこそ個人に力を与えるものになると実感したという経緯です。
最初に取り掛かったのがまさに現在の主力ビジネスであるメディア「All About」でした。個人の自立のために必要な専門家が持つ情報を、メディアを通じて発信し無料で使えるという構造を作りました。
多くのユーザーに使っていただきメディアが成長すれば、その後のインターネット事業展開におけるアセットになるだろうという狙いもありました。

立ち上げで意識したことは二つあります。一つは、専門家にとってなくてはならないサイトにするということです。ここでのデビューが自分の格を上げ、仕事も増えるようになる、このようなポジションを作ることで、質と量を兼ね備えた情報コンテンツの大量生産を可能にしました。
二つ目はこのように作られたコンテンツに多くのユーザーが集まる構造を作ることです。広告宣伝費をかけて何千万ユーザーのサイトを作ろうと思うとお金はいくらあっても足りませんので、今で言うSEO対策に辿り着いたというわけです。
2001年の開始以後、約3年で月間のユーザー数が500万人を超えるなど急拡大を見せ、現在では2600万人を超える一大メディアへとさらに成長を続けています。
事業内容について
個人の自立支援をサポートするという趣旨のもと、約1300の分野でメディアを運営しています。当事業における我々の強みは変化対応力にあります。2006年頃からのSNSの台頭や昨今の景況感の変化は向かい風でした。
そこで、前者においては検索やフィード、アプリ、そして公式サイトやSNSなど多様化するリーチ構造へ対応することで継続的にユーザー数を増やしてきました。
また、ニュース系記事など要素の異なるコンテンツの拡充も進め、足元の厳しい環境下でも業界平均に比べ単価やユーザー数の落ち込み具合を抑えることができています。

我々のメディアは専門的な情報を読みにユーザーが集まるという特性がありますので、そういった意味ではタイアップ広告が得意領域であり、独自性を持っています。当社ではコンテンツマーケティングと呼んでいるのですが、足元この分野に追い風が吹いています。
個人情報保護の観点からcookie規制が加速しており、これをベースにしてきた運用型広告から代替ニーズが生まれているためです。また、アドフラウド(広告詐欺)が近年増加しており、これを防ぐ動きも活発化しています。
これまで泡銭であったデジタルマーケティング市場は正常化の過程を辿っており、自社メディアの広告以外の収益源を求め、今後はこのコンテンツマーケティング市場に多くの企業が進出してくるというわけです。
この需要に対し、当社は業界標準のコンテンツマーケティングプラットフォームを提供する「All About PrimeAd」サービスを開始しています。ノウハウを持ち合わせていない企業や効率的な運用を目指す企業へ、我々が今まで培ったノウハウを提供し、インターネット全体のフィールドに事業領域を広げるという目的があります。また、業界側から見ると当事業はDXの側面を持ちます。
実は、ニーズがあってもその煩雑さから対応されていなかったというのがこれまでの現状です。受発注はマッチングシステムで、その後の制作進行・運用の過程もチャットベースのコミュニケーションやリアルタイムでのレポーディングを提供し、この煩わしさを払拭することがまずは何よりも重要だと考えています。
生じた受発注のうち数パーセントが当社の売上となり、他社間で生まれた収益の一部も獲得することができます。このように、業界全体の維持・発展に貢献する事業であると認識しています。

コンシューマー向けサービスとしては、トライアルマーケティングをインターネット上で行う「サンプル百貨店」というサービスを展開しています。当領域の最大の課題は大量の在庫を配送する費用でした。
我々は商品をメーカーからいただく、もしくは低価格で仕入れ、我々の利益と配送費を乗せた価格でお試し買いとして購入していただく、新しいビジネスモデルを確立しました。企業側は在庫負担がなくなり、さらにユーザー動向の把握や口コミ生成などの効果を得られます。
また、これまで賞味期限がせまり廃棄されていた食品についてもお試し買いに活用しています。この滞留ソリューションマーケットは、特に飲料中心に一定の需要がありますし、食品ロス削減にも繋がるため、社会的意義のある事業でもあります。
その他、総合通販サイト「dショッピング」および販促支援ソリューションの三位一体で事業展開をしています。

また、三本目の柱としてベンチャー投資事業を行っており、こちらについては2025年度くらいでの事業化を目指しています。
中長期の成長イメージとそのための施策
メディアを中心とした自社型広告、およびプログラマティック広告は引き続き我々のコアノウハウとして伸ばしてまいります。業界の単価動向については景況感とアドフラウドの影響で下落傾向が続いていますが、引き続き変化対応力を軸に単価水準を維持・回復させてまいります。
また、ユーザー数の拡大に注力することでこの向かい風の状態をカバーしていく方針です。多様な分野でのメディア展開の中でも、我々は「お金に困らない」「健康を害さない」「キャリア」「何かあった時に帰れる場所」の4つを人生の自立基盤として重要視しています。
ただ、このあたりの領域は専門性も高いので、ネットワークを強化しながらメディア設計を行い、将来的には合計でおそらく300程度のメディアを新たに立ち上げることができると考えています。
「All About PrimeAd」については2025年度あたりでは大きな収益貢献を実現していきたいと考えています。総合代理店三社が自社のワークフローに正式導入するなど、業界側から一定の評価は獲得しております。各社がバラバラに設けていたコンテンツマーケティング仕様の標準化を、先ほど申し上げた煩わしさ解消の第一ステップと捉え、今後もこれを進めてまいります。
これらは6000億円規模のマーケットになると推定しており、業績上の正式な数字はまだ開示しておりませんが、巨大プラットフォームを目指し積極的な投資を継続していきます。

コンシューマーサービスにおいては、NTTドコモ社との「dショッピング」共同運営体制を軸に、ドコモ経済圏における積極的な投資によりユーザー基盤を強化していきます。
EC市場が年率8〜12%程度伸びていきますので、そのマーケット伸びをしっかりと捉え、まずはトップラインの成長を実現します。資本提携で「dショッピング」というモールを構えたことで、我々の独自の強みであるトライアルマーケティングに加えて総合通販サービスの双方を持つことができました。
これは出店側から見ても片方ではお試し、もう片方では定番商品と異なる施策を打つことができるメリットがあり、提携以降取扱高は急拡大しています。また、この二つを組み合わせることで、トップラインの成長の先で、高い利益率を確保することができると考えています。

投資家の皆様へメッセージ
DXとECという二つの領域で新規事業を展開していきますが、DX事業は「マーケットの変革を起こす」ものであり、市場成長の中でシェアをとりにいくEC事業に比べますと簡単にいくとは思っていません。
ただ、我々もぶれずにしっかりと取り組んでいく気概は持っています。その上で、ここからトップラインの成長を実現してまいりますので是非それを見ていただき、応援していただけますと幸いです。
株式会社オールアバウト
本社所在地:東京都渋谷区恵比寿南1-15-1 A-PLACE恵比寿南3F
設立:2000年6月
資本金:12.85億円(2022年3月末時点)
上場市場:東証スタンダード(2005年9月13日上場)
証券コード:2454