※本コラムは2023年2月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社アソインターナショナルは創業以来一貫して矯正用歯科技工物の製造販売に従事し、業界での評価を高めながらシェアを拡大してきました。
上場を機に国内、そして海外で更なる事業拡大を図る同社の強みや成長戦略を、代表取締役の阿曽敏正氏に伺いました。
株式会社アソインターナショナルを一言で言うと
今まで培ってきたノウハウ・実績をもとに8000億円のマーケットでリーダーとなることを目指す会社です。
創業の経緯
日本歯科大学付属の技工士学校に入学して技工士になることを決めたことが最初のきっかけでした。元々技工士になるつもりはなかったのですが、親戚に歯科医が多かったことからこの仕事を知り、その後国家資格を取得しました。
また、大学在学中のインターンシップやアメリカの矯正専門の技工所を紹介した雑誌をきっかけに矯正の分野に興味を持ちました。当時、日本ではまだ矯正歯科技工物が一般的ではない時代でしたが、ゆくゆくはこの時代が来るだろうと考え、1982年にASO DENTAL社と名付け当社を設立いたしました。
しかし、やはり設立から7年ほどは仕事がなく非常に厳しい時期が続きました。ある時、アメリカからの有名な先生が開催するセミナーに参加し、その方から、「アメリカでは矯正装置が主流だ」と聞き、弟子を紹介していただいた他、アメリカでも勉強を積み重ねました。ですが、私が帰国してもまだ周りの先生方は矯正に興味を示さず、矯正技術の普及には苦労いたしました。
その後、とある大学の先生が「矯正装置は見栄えを直すだけではなく、顎関節症など、患者の口腔内の問題を解決するために必要だ」と唱えまして、これが一つ転換期となりました。
このような権威ある立場の方からの提唱により、時間はかかりましたが我々の技術も徐々に認められるようになっていきました。また、私の母校の大学病院での採用を機に他の大学病院からの問い合わせも相次ぎ、今では日本国内にある29の歯科大学のうちほとんどの大学病院が当社の技術を採用しています。
そうした経緯から、当社は矯正歯科技工物の製造において、高い技術力を誇ることができるようになりました。
上場については2018年頃から準備を始めていきました。上場により歯科技工士の業界が社会的に認知され、若い人たちに技工士という仕事をアピールできるようになることを目指していました。当業界は高齢化が進行しており、産業の成長には若手確保が必須なためです。
また、海外進出にも注力していきたいと考えていましたので、信頼性を高め、海外の代理店契約や技術提携を進めやすくするという目的もありました。
事業内容について
矯正治療に必要な装置を製造しています。大学病院や開業医から預かった患者さんの歯型に応じて矯正装置を作り、先生方に販売しています。
具体的には、ブラケットやマウスピース、顎を広げたり、奥歯を正しい位置に移動させるためのインプラント併用装置などです。その種類は多岐に渡りますが、審美・美容目的の矯正用品という点が我々独自のポジションとなっています。
製品の特徴としては「デジタル化・高性能化」を重視しています。口腔内スキャナーというデバイスを用いて、患者さんの口腔内のデータを取得し、それを元に矯正装置を作成しています。
このデジタル技術を活用することで、従来の粘土のような材料で型を取る方法よりも効率的に、高品質な装置を製造することができます。歯科矯正業界は、多くの小規模な事業者が存在しており、それが故に価格競争が激化しています。その中で、当社のこのようなデジタル技術は大きな差別化ポイントとなっています。
また、冒頭でも申し上げた通り、我々は審美・美容目的の矯正用品を扱っていますが、これは従来の矯正手法であった入れ歯や差し歯に比べ、値段よりも技術力の求められる領域であります。
この点、我々は既にある拠点を使って新しい情報やデータ技術を海外から輸入して製品に取り入れたり、また歯科医師対象のセミナーを開催するなどの付加価値を提供することが可能です。
このような優位性から、積極的な営業活動を行わずとも、当社はこれまでインバウンドの需要によって新規顧客を獲得してきました。その結果、矯正治療に対応する歯科医療機関約2.5万院のうち、当社のシェアは24%となっております。
さらに、直近10年においては症例のデジタル管理を推進しており、足元では約268万ケースのデジタルデータを保有しております。
このデータを分析することで、創業以来過去40年間にわたって蓄積された技術ノウハウを融合させ、AIなどの最新技術にも投資しています。その結果、今まで手作業で行っていた高度なシミュレーション作成を再現することが可能になりました。
このように、当社はデータ分析を通じて、高度な技術の再現性を向上させることにも取り組んでいます。
中長期の成長イメージとそのための施策
日本国内での矯正器具の納品マーケットは約90億円で、そのうち当社のシェアは24%です。国内における拡大余地について、まずはシェア50%水準までは成長させることが可能であると考えています。
高度な技術力を軸に、口コミの伝播や、大学病院から独立・開業した医師とのネットワークから堅実に顧客が拡大していくと考えております。
また、先ほども申し上げたような業界内の特徴から、小規模事業者の統廃合の動きも加速しています。歯科技工所を上場企業として取り組む当社は、今後技工士を目指す若年層にとっても魅力的存在となり、シェア拡大のほか人員の確保という面でもメリットが享受できると認識しています。
一方、新型コロナウイルス感染症の落ち着きとともにセミナーによるアウトバンドの営業活動を活発化させる他、北海道や、九州などの地方に営業拠点を設け、仕事を集めることで、日本全国におけるデータのハブとなるようなネットワークを構築していくことを目指しています。
さらに世界全体のマーケットは約8000億と推定されておりますので海外展開にも注力していきたいと考えています。現在は各国ごとに歯科医の先生方とやり取りをしているのですが、将来的には矯正治療データを世界中から収集し、歯科矯正データのデジタル・コンダクターを目指してまいります。
まずは第一のステップとして、ロサンゼルスやサンフランシスコといったアメリカ西海岸地区にデータ拠点を構える他、欧米の歯科技工所と資本業務提携を予定しております。
また、この事業を円滑に進めるため、2005年に設立しました当社のハワイ拠点も活用してまいります。ここでは現在もアメリカの仕事をしており、現地歯科医師の希望に合った矯正装置の製作や、まだ日本に輸入されていない材料を率先して活用するなど、進歩が進むアメリカと同水準の製品生産を可能にしています。
今後はこの体制を強化し、世界市場のビジネス機会をしっかりと捉えていきます。
加えて、2015年に設立し250人の歯科技工士スタッフを抱えるマニラ拠点に関しても、更なる増強を行う方針です。当拠点は、外部協力パートナーとともに汎用品製造拠点として稼働しており、当社の柔軟な製造体制の実現を担っております。
先に挙げたアメリカ拠点での先端技術を用いた高付加価値製品に特化する国内拠点と合わせ、引き続き生産の3方式で事業拡大を図って参ります。
当社独自のポジションである審美・美容を目的とする歯科矯正患者の割合は、過去10年で約2.4倍に大幅に上昇しました。
このように矯正治療に関する認知度が高まる中、日本の矯正市場は欧米諸国に比べてまだまだ遅れをとっています。しかし、昨今ではマスク着用が普及したことで矯正治療がクローズアップされるようになり、マウスピース矯正など、歯科医からしても比較的簡単に取り組める治療法が注目を集めています。
このような状況も受け、当社は、長年にわたって矯正業界を見てきた経験を生かし、今後も矯正市場の成長に自信を持って取り組み、世界中の患者さんに笑顔を届けるための貢献を続けていきたいと考えております。
投資家の皆様へメッセージ
矯正歯科技工物の製造と販売という当社事業は、地味なビジネスであると感じる方も多いかもしれません。
ですが、我々のビジネスは単に歯並びを綺麗に整えるだけではなく、患者さんの健康的な生活にも貢献することができるものであると思っております。また、まだまだ歯科医の裏方とされている当業界の価値を投資家の皆様に感じていただきたいと考えております。
そのために、上場企業として引き続き業績を伸ばし、企業価値を上げ、株価を上げる努力を惜しまず行ってまいりますので、ぜひ応援していただけますと幸いです。
本社所在地:東京都中央区銀座2-11-8 第22中央ビル4F
設立:1982年
資本金:350,170,000 円(2023年3月アクセス時)
上場市場:東証スタンダード(2022年12月23日上場)
証券コード:9340